曲げわっぱの基礎知識:お手入れ方法、作り方、そして購入先

工芸

秋田県は、その豊富な米の生産量で日本全国に知られている場所です。ここではお米を様々な形で楽しむことができ、きりたんぽや日本酒などがその代表例です。

しかし、この地域は過去に寒害や洪水などの自然災害に繰り返し見舞われ、特に江戸時代には米の不作によって経済的な困難に直面しました。そこで出羽国(今の秋田県)の領主が、地元の豊かな森林資源を活かして、曲げわっぱ作りを促進することで、下級武士の副業を支援しました。

大館曲げわっぱの魅力

大館曲げわっぱは秋田県大館市の伝統工芸品で、自然な秋田杉を使用して作られる美しい白木の器具です。これらの器具は食材の水分を適切に保持し、時間が経過しても食べ物を美味しく保つことができます。

作製過程で木板を温水で柔らかくし、その後リング状に成形します。接合部分は、樺や桜の皮で縫い合わせられています。

軽量で持ち運びやすく、吸湿性が高いため、お弁当箱や米びつとしての利用が一般的です。木の自然な香りが食欲をそそり、漆を施したものは耐久性に優れ、近年では取り扱いやすいウレタン塗装が広く用いられています。また、木目の美しさも大きな特徴です。

使用される木材の種類とその特性

曲げわっぱの製造には主に三種類の木材が用いられます。

柔らかく加工しやすいため、曲げわっぱ作りに広く使用されます。質の高い杉板は、均一な木目とその美しい外観で人気があります。

ヒノキ

強い粘りと製造過程での形状保持能力が特徴です。適切な硬さと柔軟性を兼ね備え、ヒノキで作られた曲げわっぱは、その美しい光沢と虫に強い特性があります。

サワラ

吸水性に優れており、ご飯を入れる容器として最適です。ヒノキより軽くて持ち運びがしやすく、しばしばヒノキと合わせて使用されます。

大館曲げわっぱの誕生秘話

大館曲げわっぱの起源は、木こりが杉の木を割って曲げる加工技術に始まったと言われています。

この技術が広く伝わったのは、関ヶ原の戦いの後、現在の秋田県にあたる出羽国を治めた佐竹氏が、下級武士に副業としてこの工芸を奨励したからです。自然災害が頻発するこの地域では、豊富にある秋田杉を活用し、困難に立ち向かう手段として曲げわっぱの製作が推進されました。農民が山から運び出した原木を基に、下級武士が様々な生活用品を生み出す体制が整えられ、その製品は提灯の部品からひしゃく、お弁当箱、おひつなど多岐に渡りました。

この工芸品は時を経て、岩手県や青森県、さらには米代川を通じて山形県の酒田地域や新潟県など、広い範囲で愛されるようになりました。

現代に受け継がれる曲げわっぱの魅力

大館曲げわっぱは昭和55年に経済産業省から伝統工芸品に認定されました。

プラスチックの普及によって一時は影を潜めたものの、近年はその本質的な美しさや香りが再評価されています。コーヒーカップやとっくり、ぐい飲みなど、様々な製品が人気を集め、1998年にはデザイン性が高く評価されグッドデザイン賞を受賞しました。現在では世界的にも高い評価を受け、多くの人々に愛されています。特に、お弁当箱は非常に人気が高く、注文してから手元に届くまで半年も待つことがあるほどです。

日本各地の曲げわっぱ名産地紹介

青森県:ヒバを用いた「ひばの曲物」

青森県の藤崎町をはじめとする地域で作られる「ひばの曲物」は、青森ならではのヒバの木を使っています。ヒバに含まれる豊富な樹脂により、水をはじきやすく、製品に高級感を与える白い木肌が特徴です。「ゴロ」という専用の道具を使い、細心の注意を払って曲げる技術により、なめらかな曲線を表現しています。

秋田県:人気沸騰中の「大館曲げわっぱ」

曲げわっぱブームの中心となっているのが、「大館曲げわっぱ」です。国の伝統工芸品にも指定されており、その起源は約400年前に遡ります。当時、木こりが作った杉の弁当箱が始まりで、その後、武士たちの副業として発展しました。「大館曲げわっぱ協同組合」では、自分だけの曲げわっぱを作る体験もできます。

静岡県:美しい漆仕上げの「井川メンパ」

静岡県井川地域で生産される「井川メンパ」は、天然漆の輝きが魅力です。「メンパ」とは地方語で弁当箱のことで、サイズに応じていくつかの種類があります。ヒノキと桜の皮を使い、吸湿性が高いことからおひつとしても適しています。鎌倉時代に始まり、江戸時代には特産品として広がりました。

長野県:「木曽ヒノキ曲げわっぱ」の伝統

長野県塩尻市の奈良井宿で主に作られる「木曽ヒノキ曲げわっぱ」は、木曽ヒノキと木曽サワラを使用し、桜の皮で結ばれています。静岡県の製品と同じく、「メンパ」と呼ばれることもあります。側面には木曽ヒノキを使用し、蓋や底板には軽量で吸水性の高い木曽サワラを採用しています。漆塗りの美しい仕上がりが人気の秘密です。

大館曲げわっぱを長く愛用するためのケア方法

大館曲げわっぱは、その白木の素材から特別なお手入れが必要です。特に、中性洗剤を使うことは避けてください。また、湿気を含んだままにしておくと変色の原因になりますが、もし変色してしまったら、サンドペーパーで磨いて元に戻すことができます。

製品を長くきれいに使うためには、ぬるま湯で手早く洗い、研磨剤の入っていないスポンジで軽くこすってから、しっかりとすすぎ、完全に乾かすことが重要です。漂白剤や重曹は使用しないでください。

乾燥する際は、最初に製品を逆さまにして水滴を落とし、その後立ててしっかり乾かします。水気は布で軽く拭き取るのがおすすめです。

乾燥には直射日光を避け、風通しの良い場所を選ぶこと。しっかり乾かすためには1日以上かかることもありますが、この手間をかけることで製品に愛着がわきます。

使い込むほどに、曲げわっぱの風合いが変わっていくのは魅力の一つです。長年愛用することで、使用者の手に馴染む独自の味わいが生まれます。

大館市の蔵から発見された数百年前の曲げわっぱは、今もなおその精密さを保っています。これは、曲げわっぱが時を超える美しさと技術を持つことを証明しています。

注意すべき点

電子レンジの使用は避け、硬いブラシでの洗浄や漂白剤の使用も推奨されません。油分の多いものを入れるとシミになる可能性がありますが、小さな傷や色の変化も使い込むうちに味わい深くなります。

初めて使う時のアドバイス

ウレタン塗装されていない白木の曲げわっぱを初めて使う際には、ぬるま湯で軽く洗ってほこりを落とし、布で拭いてから完全に乾かしてください。最初の数回は水で濡らしてからご飯を入れると、くっつきにくくなります。

購入するならここ!大館曲げわっぱの信頼できるお店

インターネット上で安価に販売されている曲げわっぱ製品の中には、本物とは異なるものもあります。「大館曲げわっぱ組合」に加盟している以下の7社なら、本物の大館曲げわっぱを手に入れることができます。

  • 栗久(大館市字中町)
  • 九嶋曲物工芸(大館市岩瀬)
  • 高田漆器工芸(大館市十二所)
  • 工房るわっぱ(大館市東台)
  • 柴田慶信商店(大館市清水)
  • 大館工芸社(大館市卸町)
  • 佐々木曲物工芸(大館市中道)