日本の夏を涼しく彩る、房州うちわ、京うちわ、丸亀うちわの伝統と魅力

工芸

夏がやってくると、家の中やお祭り、バーベキューなどでよく使われる「うちわ」。今では涼を取るために使われていますが、昔は遮光や清め、儀式や占い、祈りの行事、そして貴族の顔隠しにも用いられるなど、多岐にわたる用途がありました。

初めは鳥や獣の毛、芭蕉や蒲葵の葉で作られていましたが、時間と共に少しずつ変わり、現在見られる竹の骨と和紙を使ったうちわが室町時代に形成され、広く民衆にも使われるようになりました。特に江戸時代には、木版画の技術が大きく発展し、うちわに絵を描く文化が生まれ、美術をもっと身近に楽しむことができるようになりました。

さらに、涼を得るためだけでなく、服装の一部としてや踊りの小道具としても使われるなど、夏の装いに彩りを加えるアイテムとしての地位を確立しました。

この記事では、日本を代表する三大うちわである、丸亀うちわ、京うちわ、房州うちわのそれぞれの魅力に迫ります。

丸亀うちわが日本でトップの生産量を誇る

丸亀うちわが日本のうちわ生産量の約90%を占めているのは、驚くべき事実です。このうちわは、平成9年に「伝統的工芸品」として認定され、その特徴的な朱赤色と丸い金印で知られています。

その起源は1633年(寛永10年)にさかのぼり、金毘羅大権現の別当を務めた金光院の住職、宥睨(ゆうげん)が考案したとされます。以来、丸亀藩の地場産業として発展しました。製造には愛媛県の竹、高知県の紙、徳島県の糊が使われ、これらの材料が近隣にあることが長続きの秘訣です。

丸亀うちわの特徴は、柄と骨を一本の竹から作る点にあります。これに対し、京うちわでは柄と骨を別々に作る「差し柄」技法が採用されています。

丸亀市港町にある「うちわの港ミュージアム」では、丸亀うちわの魅力を体験できます。展示や歴史解説、関連文献、実演コーナーがあり、入場は無料ですが、うちわ貼り体験には500円が必要です。体験時間は約40~50分(参加者が10人以上の場合は約90分)で、予約が必要です。

京うちわ:伝統美と洗練の融合

京うちわの歴史は南北朝時代に遡り、その当時の日本海賊である倭寇が朝鮮半島から連れ帰ったうちわが、紀州や大和を経て京都の貴族達の夏の避暑地に伝わったと言われています。宮中で用いられた「御所うちわ」がその起源で、4~5年育成した国産の竹を使用し、漆や金彩で飾られた豪華なデザインのものが作られています。

その装飾性と繊細な製法は人気が高く、製作には高度な技術が必要です。京うちわは、使用する細竹の本数によって品質が分かれ、本数が多いほど高級とされています。

精緻な絵柄が特徴の京うちわは、丸型、角型、長柄型、羽子板型、扇型、千鳥型、キャラクター型といった様々な形状があり、京都の伝統文化を象徴するアイテムの一つとされています。

房州うちわ:千葉の館山市と南房総市からの贈り物

千葉県の館山市と南房総市で作られる房州うちわは、地元に自生する篠竹(女竹)を使い、細かく割った竹で作った一体型の柄が特徴的です。これは、京うちわの木製の柄を後から取り付ける方法や、丸亀うちわで使われる平たく削った竹の方法とは異なり、持った時の自然な感触としなやかな動きが涼しさを感じさせます。

デザインは、丸型、卵型、長柄型といった基本形から、絵柄に合わせて変えることができる幅広い楕円形など、多様性があります。これらはすべて手作業で行われ、機械では出せない細やかさがあります。最近では、和紙だけでなく布を使ったものも作られており、デザインの幅が広がっています。

房州うちわの歴史とその製造背景

館山市や南房総市は、江戸時代以来、高品質な竹の供給源として名高く、この地域から始まったうちわ製造の歴史は関東地方におけるうちわ作りの基礎を築きました。この地で採れる篠竹は、江戸に住むうちわ職人たちへと那古港から送られ続けました。明治時代には、うちわの骨を作る職人が増え、房州うちわの製造が地域産業として大きく発展しました。

大正8年に発行された全国特産品製造家便覧には、館山市に団扇原料を扱う企業があったことや、那古港周辺で多くの職人が活動していたことが記されています。明治維新以降も、この地域は関東地方で際立ったうちわ製造の中心地としてその名を馳せました。

特に大正12年に発生した関東大震災の後、東京のうちわ問屋がこの地域へ移住し、多くの腕利き職人が集まることで、房州うちわの製造は一層盛んになりました。大正末期には、年間に700万本ものうちわを生産する規模にまで成長しました。

そして平成15年、伝統的工芸品産業の振興に関する法律に基づき、経済産業大臣から伝統的工芸品としての指定を受け、現在に至るまで千葉県を代表する特産品として親しまれ続けています。

房州うちわ作りの醍醐味を体験

房州うちわの製作と伝統を守るため、職人たちが立ち上げた房州うちわ振興協議会では、技術の継承に注力しています。

千葉県の民芸品店では、職人の手によって一つずつ心を込めて作られた房州うちわを見つけることができます。さらに、職人が直接指導を行う房州うちわ作りの体験教室が定期的に開催されており、参加者はうちわ作りのプロセスを学ぶことができます。

体験では、貼り付けから断裁、端の処理までの作業に約2時間を費やし、参加費は1,500円~となっています。体験を希望する場合は、事前に予約が必要です。

21工程を経て作られる房州うちわを自分の手で作ることは、非常に特別な経験です。自分だけのオリジナルうちわを、職人の技を間近で学びながら作ることができるのは、忘れられない思い出になるでしょう。

【うちわ作り体験】
房州うちわ振興協議会

まとめ

夏は祭りやイベントで賑わう季節。浴衣に房州うちわを添えると、涼しげで洗練された雰囲気を演出できます。

伝統工芸品と聞くと高価なイメージがありますが、小さめのうちわなら約2,000円で手に入れることができ、夏の装いに手軽に加えることができます。このアクセサリーは、夏のおしゃれを楽しむための素敵な選択肢となります。