見る人を魅了する切子の繊細な美しさについて、ご紹介します。
江戸時代にその起源を持ち、商人たちによって誕生した江戸切子と、藩によって支えられ育てられた薩摩切子。これらの工芸品は、長い日本の歴史を経て受け継がれてきた伝統です。
プレゼントや記念品としても非常に人気がある、切子の魅力に少し目を向けてみましょう。
江戸切子と薩摩切子、それぞれの美しさの違い
日本の伝統的な切子工芸と言えば、江戸切子と薩摩切子の二つが有名です。以下では、それぞれの背景や使用目的、そしてユニークな特性について詳しく見ていきます。
江戸切子
[江戸切子の特徴]
・商人たちによって生み出された
・庶民の日常生活に溶け込むために作られた
・色が薄く施されたガラスが、明るさと華やかさを提供
・幕末から明治維新にかけての時代を経て、今日まで継承されてきた
薩摩切子
[薩摩切子の特徴]
・藩による支援の下で産業として発展
・主に海外貿易や展示目的で作られた
・色が濃く施されたガラスは、深みと豊かな重厚感を与える
・明治維新の際の工場の焼失と藩の消滅により一度は途絶えたが、復刻により今に伝えられている
江戸切子と薩摩切子の一番の違いは、カットされた後の色ガラスの厚さにあります。江戸切子はカットによって色付きと透明な部分の境界が鮮やかに表れるのに対し、薩摩切子では厚い色ガラスが使われ、カットすることでグラデーションのように美しい境界が形成されます。
江戸切子の起源と輝きを受け継ぐ美
江戸の天保年間、ガラス商として名を馳せた加賀屋久兵衛が、ヨーロッパから伝わったガラス技術に独自の工夫を加え、金剛砂を使って細かい彫刻を施し江戸切子の礎を築きました。
ペリーが率いる黒船が来航した際には、加賀屋の作った切子の品々が贈り物として選ばれ、その精巧な造りにはペリーも驚嘆したと言われています。明治維新が起こると、ガラス製造は国によって重視され、ヨーロッパの先進技術を取り入れることで、江戸切子の伝統はより一層引き継がれていきました。
1985年には東京都の伝統工芸品として認められ、2002年には経済産業大臣指定の伝統的工芸品に指定されました。
薩摩藩主の後押しで発展を遂げた薩摩切子
薩摩藩の28代藩主、島津斉彬は、造船、製鉄、紡績、印刷といった近代化への取り組みを他藩に先駆けて推進しました。その中で立ち上げられたガラス工場では、薩摩切子を含む多様なガラス製品が製造されました。特に「薩摩の紅ガラス」と称されるその色鮮やかなガラスは、紅、藍、紫、緑といった多彩な色合いを生み出すことに成功しました。
しかし、斉彬の突然の死とその後の薩英戦争で工場が壊滅し、薩摩切子の技術は一度断絶してしまいました。それから約100年後の1985年、鹿児島市で薩摩ガラス工芸が設立され、薩摩切子の復興に向けた取り組みが始まりました。伝統に敬意を払いつつ、新しい製品の開発にも力を入れています。
2001年には、「二色被せ」技法を用いた新しいタイプの薩摩切子が開発され、伝統的な単色技法に新しい風を吹き込みました。現在は鹿児島県内の5つの工房で製造が行われています。
近年注目されているのは黒色の切子です。伝統的な製法では裏から光を当ててカットラインを確認しますが、黒色ガラスでは光が通らないため、線が見えません。職人は長年の経験と熟練した技術を生かし、音や振動を頼りにして作品を完成させます。
グラスが中心の切子製品とその魅力
切子製品はさまざまな種類がありますが、中でもグラス類は特に種類が豊富で人気があります。人気のアイテムとしては、
- ぐい呑み
- 焼酎グラス
- ロックグラス
- ワイングラス
- タンブラー
- ビアグラス
- 冷酒グラス
- 升グラス
- シャンパングラス
などの酒器が挙げられます。これらはプレゼントや様々なお祝いの記念品としても喜ばれます。
また、食器に関しても、小さな皿から大きな皿、鉢やサラダボウルに至るまで幅広いサイズがありますし、ペーパーウェイトやスマートフォンケースのような小物から、置時計、フォトフレーム、風鈴、アクセサリーといった多様な製品が存在します。
切子製品の正しいお手入れ方法
切子製品は繊細で扱いが難しいため、特に日常的に使用するグラスや食器は丁寧に扱う必要があります。お手入れの際は以下の点に注意しましょう。
- 柔らかいスポンジや布で洗う
- 食器洗い機の使用は避ける
- 急激な温度変化は避け、熱いものを入れたり冷蔵庫での保管はしない
- 他の食器との接触による傷や破損に注意し、積み重ねない
- 油汚れのあるものは別に洗う
- 拭く際は柔らかい布を使い、優しく丁寧に行う
使用していると徐々に「くすみ」が出てくることがありますが、そのような場合は家庭用の漂白剤を薄めて数分間浸すと、くすみを取り除き、元の輝きを取り戻せます。
すみだ江戸切子館」で江戸切子の世界に触れる
江戸切子の美しさと製法をじっくり学び、実際に体験してみたいなら、「すみだ江戸切子館」がおすすめです。この施設は、錦糸町駅から徒歩約6分の距離にあります。
展示では、江戸切子の豊かな歴史や、その製造過程、使われる道具について、パネルや実物を通して詳しく解説しています。また、職人によって作られた約350点の限定品や作品が展示・販売されていて、切子の奥深い世界を垣間見ることができます。
訪れた方は、見学だけでなく、自分で江戸切子を作る体験も可能です。自分の手で作った色被せガラスのグラスは、体験の記念として、世界に一つだけの特別なアイテムになります。
日本の切子文化、伝統と革新の融合
細やかで美しい日本の切子は、長い間、国内外から愛されてきました。
商人たちによって生み出された江戸時代からの伝統を持つ江戸切子、そして一度は失われたものの、百年後に復活した薩摩切子。これらの技術には、「伝えたい」「残したい」という情熱が込められています。
伝統的な技術を大切にしながらも新しい技法を取り入れ、進化し続ける切子文化は、これからも期待が寄せられています。伝統と革新が融合した切子の世界は、今後もさらに魅力的な発展を遂げていくでしょう。