夏を象徴するものといえば、海やプール、夏祭りのにぎわいが挙げられます。これらの光景には、花火、浴衣、そして下駄の音が不可欠です。
単なる浴衣のアクセサリーとは異なり、下駄は日々の生活の中でもよく見られるようになり、カジュアルな服装やビーチウェアにもピッタリです。
Tシャツやジーンズと組み合わせた下駄のスタイルは、夏の定番とも言えるでしょう。下駄には様々な種類があり、その用途も広がっています。
この記事では、下駄の様々な面を紹介します。
下駄の起源
下駄の歴史は古く、邪馬台国の時代よりも前まで遡るとされています。「田下駄」という農業に使われたと思われる下駄が発見されており、これが下駄の始まりと考えられています。
奈良時代から平安時代にかけて、台に歯を取り付けた形の「足駄」という下駄が、武士や貴婦人に愛用されました。これらは特に、泥濘みを歩く時や洗濯で足が濡れる場合に役立ちました。
江戸時代には、雨天時の履物として一般にも広まりました。
歯が高いものは「足駄」(京都・大阪では「高下駄」)
歯が低いものは「下駄」(京都・大阪では「差下駄」)
というように、呼び名が区別されるようになったと言われています。
さまざまなタイプの下駄とその特徴
♦駒下駄
基本中の基本である駒下駄は、二本の歯が特徴です。初心者でも扱いやすく、下駄の世界への最初の一歩に最適です。
♦千両
千両は後ろの歯が駒下駄に似ている一方で、前の歯が斜めになっているのが特徴です。かつて千両役者に愛されたことからその名が付けられました。
♦小町
小町も千両と同様に前の歯が斜めですが、後ろの歯はより丸い形をしています。動きやすく、耐久性が高いため、若い女性に人気です。
♦右近
右近は草履に似た形状で、アーチ部分がくり抜かれています。歯が低めで接地面が広いため、まるでサンダルのような履き心地を楽しめます。
♦日和下駄
日和下駄は特に女性向けで、駒下駄より背が高いです。「どんな天気でも履ける」という便利さから名付けられました。
♦一本歯
その名の通り、歯が一本だけの下駄です。坂道でのバランスが取りやすく、天狗のイメージが強いですが、実際には登山にも適しています。
♦ぽっくり
ぽっくりは特有のくり抜き型の歯があり、「ぽくっぽくっ」という音を立てます。主に七五三で子どもたちが履くイメージがありますが、舞妓さんや半玉にも愛用されています。
加えて、下駄には素材や製法によっても多様性があります。たとえば、
・塗り下駄
・焼き下駄
・桐、竹、杉、松、桜の皮を使用した下駄
・鉄製の下駄
・鎌倉彫りや津軽塗りなどの手仕事による芸術性の高い下駄
など、選ぶ楽しみが無限に広がっています。
日本の伝統履物:下駄、雪駄、草履の個性
日本には、下駄、雪駄、草履という三つの代表的な伝統履物があり、それぞれが独自の特長を持っています。
♦下駄
下駄は木製の板に二本の柱(歯)を取り付け、足を鼻緒で固定する形式の履物です。日常的に使われることが多く、非常にポピュラーな選択肢です。
♦雪駄
雪駄は竹の皮を底に使用し、その上に革を貼り、踵部分に鉄を打ち込んで強化した草履の一種です。独特の造形と機能性で知られています。
♦草履
草履はわらやその他の素材を編み上げて作られ、外出用にはコルク、革、ビニルなどで表面を仕上げています。格式のある場所や正装に適しており、多くの日本人に愛用されています。
下駄は一般に二本の歯が特徴ですが、「右近」のように草履を思わせるデザインや、「ぽっくり」という音が魅力的なバリエーションも存在します。一方で、草履はその形状や使用される場面において、下駄よりも高い格式を持つとされ、特別な日に選ばれることが多いです。
雪駄については、その四角い形状と底面に特徴的な鉄を打ち込んだデザインが、千利休や彼と交流のあった茶人によって創り出されたとされる歴史があります。
粋な足元の演出!鼻緒で差をつける
鼻緒とは、下駄や草履に取り付けられる緒のことで、足の指が触れる部分や緒全体を指します(三省堂国語辞典第六版より)。この鼻緒を選ぶことは、自分らしさを表現する重要な手段となっています。選べる素材には、
♦本天(ビロード)
触り心地が柔らかく、非常に人気のある鼻緒素材です。その起毛が特徴で、最上の質感を提供します。
♦罠
本天と並ぶ人気を誇り、柔らかく清涼感のある感触が魅力的です。
♦革
牛革や鹿革を始めとする多種多様な動物の革が用いられます。布製品に比べて足あたりは硬いですが、高級感があります。
♦ハイミロン
履き込むほどに柔らかくなる起毛の化学繊維素材。手頃な価格と耐久性で選ばれます。
♦サロン
新しいタイプのビロードで、長い毛足が特徴です。使用するほどに柔らかくなります。
さらに、ヘビやトカゲ、サメの革で作られた鼻緒もあり、様々な選択肢から自分に合ったものを見つけることができます。
色や柄、太さも選択の幅を広げます。無地の落ち着いた色合いから、鮮やかな色、グラデーションや光沢のある素材まで、多彩です。
柄物では、花柄や縞模様、寄せ模様、いろは歌柄、蜻蛉柄、幾何学模様、西洋風のデザインなど、選ぶ楽しみは尽きません。鼻緒と下駄の組み合わせによって、無限大のスタイリングが可能です。
伝統的履物が現代スタイルと融合
1950年代、日本の多くの家庭で日常的に使用されていた下駄は、生活に欠かせないアイテムでした。しかし、道路の舗装や革靴の普及とともに、生活スタイルが変化し、下駄の需要は減少しました。それでも、和装だけでなくカジュアルなデニムと合わせる新しいスタイルが登場し、下駄は再び注目を集めています。
特に、若者や海外からの注目が高まり、伝統を大切にしつつ西洋のファッションとも合う新しいデザインの下駄が登場しています。伝統と革新が交わる下駄の世界は、これからも日本文化の魅力的な側面として注目されていくでしょう。